覇天会合気道の目指す『掌握の境地(アブソリュートコントロール)』について
合気道覇天会 筆頭師範 藤崎 天敬
【従来の覇天会とその課題】
これまでの覇天会においては、伝統型、組手型、打撃の捌き、打ち込み、連続技、返し技、連環法、防御法といった多岐にわたる技法が存在しました。加えて、ユニファイド合気道ルール試合や合気道乱取り試合など、多様なルールに基づく組手や試合形式も実践されてきました。しかしながら、これらの修練を通じて目指すべき具体的な練度や、最終的に体得すべき技術体系を示す統一された指針は、明確に提示されていませんでした。
【新たな指針『掌握の境地』の提示】
こうした状況を踏まえ、合気道覇天会
藤崎天敬師範は、当会が目指すべき指針であり、技術的な最終到達目標として**『掌握の境地(アブソリュートコントロール)』**という概念を提示しました。一部には唐突に感じられ、戸惑いの声もあるかもしれませんが、これは覇天会における技術と精神性の深化を追求した先に見据える、究極的な境地を示すものです。
【『掌握の境地』の目的と背景:「背骨」の確立】
この**『掌握の境地(アブソリュートコントロール)』は、これまで多岐にわたる技法や実践形式が存在した覇天会に、組織全体を貫く一貫した指針、いわば『背骨』**を確立するために提示されたものです。その内容は、藤崎師範自身の長年にわたる試合や組手における実践経験と、師範が真剣な対峙において実際に示される高次の状態を深く分析し、体系化・言語化したものに基づいています。
【「境地」という言葉を選んだ理由】
たしかに**「境地」という言葉は、捉えどころがなく非科学的に響くかもしれません。しかし、これは決して到達不可能な理想論ではなく、長い時間と厳しい鍛錬を経ることで段階的に達成可能であると我々は考えています。その道のりが容易ではなく、深い修練を要するからこそ、単なる「目標」ではなく、究極的な到達点として「境地」**という言葉で表現しているのです。
【『掌握の境地』とは何か:定義と要件】
では、『掌握の境地(アブソリュートコントロール)』とは具体的に何を指すのでしょうか。それは、以下の三つの技術要素を統合・連携させ、あらゆる状況下で相手を確実に制圧する技術体系であり、覇天会が目指す武道的な境地です。
高度な合気技術
洗練された投げ技
効果的な打撃
そして、これら技術要素の行使において忘れてはならないのが、『相手への配慮』です。これは『掌握の境地』を構成する上で極めて重要な要件となります。
その中核技術には相手の動きに流れるように対応する**『流転する立ち関節』があり、技術の行使においては、相手に不必要な苦痛や重傷を与えない配慮が求められます。このように制圧までの時間、達成されるべき状態、そして「相手への配慮」といった具体的な要件が定義されているのは、高度な合気道には何が不可欠かという、藤崎師範自身の考えを整理し、反映させた結果と言えるでしょう。この『掌握の境地』を目指すため、当会の稽古では、基礎体力や姿勢の重視・体捌きの反復はもちろん、『流転する立ち関節』**を想定した型稽古や、多様な状況に対応するための自由度の高い組手稽古に重点を置いています。
【到達レベルと時間:厳格・標準・広義】
具体的には、理想とされる**『厳格な定義における掌握の境地』では瞬間から10秒以内での制圧を、そして『標準的な掌握の境地』では10秒から30秒以内での制圧完了を目標としています。
もっとも、この30秒という基準についても、藤崎師範個人としては『やや時間がかかった』と感じる場合もあるとのことです。さらに、相手が高度な技術を持つ武道家である場合など、状況によっては時間を超えても最終的に内容ある制圧ができれば『広義の掌握の境地』と捉える柔軟性も持たせています。これは、目標設定における現実的な到達可能性と、条件が厳しすぎることによる修行者の意欲低下を避ける**ための配慮と言えるでしょう。
【精神性:「相手への配慮」と「和合」】
そして、『掌握の境地(アブソリュートコントロール)』において「相手への配慮」、すなわち過度に傷つけることなく制圧するという要件は、単なる技術論に留まらない重要な意味を持ちます。覇天会では、たとえ過酷な実戦の状況下であっても、相手を不必要に傷つけずに短期間で制圧できる能力こそ、合気道の理想である**『和合』**の精神を体現するものだと捉えています。なぜなら、そのような極限状態にあっても他者への配慮を失わないという姿勢そのものが、高い精神性を示すからです。
【覇天会の独自性:他の合気道流派との比較】
合気道の多くの流派が精神性や型を重視する中で、覇天会は伝統的な理念(武産合気、和合)を尊重しつつも、実戦的な有効性を追求し、そのための具体的な目標(『掌握の境地(アブソリュートコントロール)』)と技術体系、そして検証の場(組手・試合)を明確に提示している点に独自性があります。
【武道全体から見た『掌握の境地』】
言わば、これは他派武道で追求される**『一撃必殺』や『柔よく剛を制す』といった理想や境地の、覇天会合気道における独自の到達点、すなわち『掌握の境地(アブソリュートコントロール)』**を示すものと捉えることができるでしょう。
【総括:覇天会の目指す道筋と進化】
以上のように、合気道の抽象的理念**『武産合気』を具体的な『流転する立ち関節技』へと展開し、それを練磨することで目指す技術的・精神的到達点『掌握の境地(アブソリュートコントロール)』、そしてその先にある究極の理想『和合』へと至る道筋を明確にしました。これは、合気道覇天会及び藤崎個人の武道観を集約したものであり、会としての一貫した修練体系**を示すものと考えています。
また、覇天会の進化は、実践ルールにも表れています。過去の**『フルコンタクト合気道ルール』が既存ルールの踏襲であったのに対し、顔面への手刀打ちを認めた『ユニファイド合気道ルール』は、技術的な深化を促す重要な一歩であったと藤崎師範は評価しています(自画自賛の念は否めないとしつつも)。そして今回提示された『掌握の境地』は、こうした実践レベルの追求と並行し、目指すべき目標や思想的側面においても、覇天会が新たな発展段階に入ったことを示すものと言えるでしょう。この『掌握の境地(アブソリュートコントロール)』**という高い目標を共有し、日々の稽古を通じて会員一同が共に成長していくことが、覇天会の願いです。