合気道は実戦で「使える」のか? 実戦合気道 覇天会・藤崎天敬師範に聞く、その真髄と現代における可能性

 

「合気道は、果たして実戦の場で通用するのだろうか?」

武道や格闘技に関心を寄せる多くの人々が、一度は抱くであろうこの問い。流麗な体捌き、相手の力を利用する合気の理合――その洗練されたイメージとは裏腹に、実戦における有効性については、長年議論が交わされてきました。

この根源的な問いに対し、明確な視座を提示するのが、実戦合気道 覇天会を主宰する藤崎天敬師範です。長年の指導経験と実戦的な探求に基づき、合気道が現代において持つ真価と可能性について、深く話を伺いました。

 

「実戦」の定義が有効性を左右する:護身術か、競技格闘技か

――単刀直入にお伺いします。合気道は実戦で使えるのでしょうか?

藤崎師範: その問いへの答えは、「実戦」という言葉をどう定義するかによって大きく変わります。

もし**「実戦」を、予期せぬ襲撃から身を守る「護身術」と捉えるならば、合気道、とりわけ打撃や試合形式を取り入れた「実戦合気道」を深く修めた者は、非常に高いレベルでの実用性を発揮できる**でしょう。

一方で、「実戦」を、定められたルール下で行われる「総合格闘技(MMA)」のような競技と捉えるならば、純粋な合気道の技術がそのまま通用するとは言い難い。なぜなら、総合格闘技には、合気道が本来想定していない技術や戦略が存在するからです。

 

――覇天会が採用する「ユニファイド合気道ルール(顔面への手刀攻撃を認める)」は、より実戦に近い状況を想定しているのですね?

藤崎師範: その通りです。顔面への攻撃をルールに含めることで、現実の危機的状況により近い攻防を稽古で再現できます。これにより、突発的な打撃に対する防御勘や、相手の虚を突く攻撃など、護身術としての実効性を高める上で不可欠な実践的技術を磨くことが可能になります。

 

護身術としての卓越した有効性:打撃への対応力と高度な立ち関節技

――護身術という観点から見た合気道の有効性について、詳しく教えていただけますか?

藤崎師範: 合気道は、護身術として極めて有効な武道であると言えます。特に、覇天会のような実戦合気道では、飛来する打撃を巧みに捌く技術と、相手を確実に制圧する立ち関節技が高度に洗練されており、これが最大の強みとなります。

第一に、合気道の体捌きは、相手の攻撃力を受け流し、無力化することに特化しています。これにより、打撃の威力をまともに受けることなく、逆に相手の体勢を崩すことが可能になります。

第二に、合気道の関節技は、相手を物理的に制圧する上で非常に効果的です。特に、立ち状態で行う関節技は、相手に深刻なダメージを与えることなく行動不能にできるため、過剰防衛のリスクを抑えつつ身を守る護身の状況において理想的です。

さらに、合気道の根底にある「相手の力を利用する」という思想は、体格や筋力で劣る者が、より大きな相手や、あるいは複数の相手に対峙する状況においても、活路を見出す可能性を秘めています。相手の攻撃エネルギーを逆手に取り、最小限の力で効果的に制することが、合気の真髄なのです。

 

喧嘩に用いるべきではないが、不測の事態からの自衛には有効

――いわゆる「喧嘩」のような状況では、合気道はどのように役立つのでしょうか?

藤崎師範: 大前提として、**合気道は自ら争いを仕掛ける「喧嘩」のための武道ではありません。**その精神は、対立を避け、和合を目指すところにあります。

しかし、万が一、望まぬ争いに巻き込まれ、自身の安全を守らねばならない状況に陥った場合、実戦合気道で修得した高度な体捌きや、相手を一瞬で制する立ち関節技は、攻撃から身を守り、危険から距離を取るための極めて有効な手段となり得ます。 あくまで、目的は「喧嘩に勝つ」ことではなく、「不測の暴力から自身を守り抜く」ことにある、と理解してください。

 

異種格闘技戦における相性:打撃系には対抗可能、寝技主体には課題も

――他の武道や格闘技との対戦、いわゆる異種格闘技戦を想定した場合、相性はいかがでしょうか?

藤崎師範: 空手や拳法など、単発の打撃を主体とする格闘技に対しては、合気道の体捌きによって相手の攻撃を巧みにかわし、懐に入り込んで投げ技や関節技へと繋げることで、十分に対抗できる可能性があります。相手の得意な間合いを外し、こちらの土俵に引き込む戦略が鍵となります。

一方で、柔道やレスリングといった組み技、特に寝技を主体とする格闘技に対しては、打撃を効果的に用いることができれば対抗の糸口は見出せますが、一度グラウンド(寝技)の攻防に持ち込まれてしまうと、不利な状況に陥る可能性が高いと言わざるを得ません。

 

総合格闘技(MMA)における有効性:限定的だが、バックボーンとしての可能性も

――近年、世界的に人気の高い総合格闘技(MMA)のリングでは、合気道はどの程度有効だとお考えですか?

藤崎師範: 率直に申し上げて、現在の一般的な総合格闘技のルール下においては、合気道の技術がそのまま主戦力として有効に機能する場面は限定的でしょう。

その主な理由は、MMAでは相手にダメージを与えることが勝敗に直結するため、合気道が重視する「相手を傷つけずに制圧する」技術体系の利点が活きにくい点にあります。また、時間制限のない、あるいは長い寝技の攻防が許容されるルールでは、寝技に特化した技術を持つ選手が圧倒的に有利になります。

ただし、**総合格闘技を構成する技術の「バックボーン」の一つとして捉えるならば、部分的に有効な要素も見出せます。**実戦合気道には打撃と組み技(立ち技主体)の要素が含まれているため、他の格闘技と融合させることで、選手の技術的な引き出しを増やす一助となる可能性はあります。しかしながら、敢えてMMAの主要なバックボーンとして実戦合気道を選択する積極的な理由は、現時点では見出しにくいかもしれません。実戦合気道は、あくまで護身術としての有効性を追求した合気道であり、その本領は別の次元にあると言えます。

 

「試合ができない」は過去の話:実戦合気道の魅力と戦略性

――藤崎師範が考える、実戦合気道の最大の魅力とは何でしょうか?

藤崎師範: 実戦合気道の魅力は多岐にわたります。**かつて、合気道に対して「試合ができない」「危険すぎる」といった声がありましたが、それはもはや過去の認識です。**現代の実戦合気道、特に覇天会のユニファイド合気道ルールでは、安全性を確保した上で、合気道の技術を駆使して正々堂々と競い合う試合が、何ら問題なく実施可能です。

そして、多彩な立ち関節技と、それを巡る攻防の戦略性の高さは、実戦合気道ならではの醍醐味と言えるでしょう。相手の動き、力の方向、重心の移動を瞬時に読み解き、最適な関節技を選択し、極める。それはあたかも盤上の詰将棋を解くような、極めて知的な格闘技なのです。もちろん、高度に練られた打撃を捌く技術と組み合わせることで、護身術としても比類なき有効性を発揮することは言うまでもありません。

 

空手との比較を超えて:相互尊重と実戦合気道の可能性

――しばしば比較対象とされる空手と比べて、どちらが「強い」のでしょうか?

藤崎師範: それは非常に答えにくい質問ですね。なぜなら、武道や格闘技における「強さ」は、流派やスタイルの優劣ではなく、最終的には個々の修練度や能力に大きく依存するからです。

私が重要だと考えるのは、合気道と空手が、互いの長所と特性を認め合い、リスペクトし合いながら、共に高め合っていく姿勢です。異なる道を歩む武道・格闘技が相互理解を深めることこそが、武道界全体の発展に繋がるはずです。

その上で、あえて実戦的な状況を想定し、特定のルールに縛られないとするならば、覇天会のユニファイド合気道ルールで培われた技術をもってすれば、空手に対しても十分に対抗し得ると考えています。打撃を捌き、相手のバランスを崩してからの関節技や投げは、優れた空手家にとっても無視できない脅威となるでしょう。

ただし、競技人口という観点では、実戦空手や伝統派空手に比べて、合気道、特に実戦合気道はまだ少ないのが現状です。競技人口の差は、必然的にトップレベルの選手の層の厚さにも影響します。実戦合気道の競技人口を増やし、競技としてのレベルを底上げしていくことは、我々の今後の重要な課題です。

 

未経験者こそ歓迎:合気道の門戸は常に開かれている

――最後に、これから合気道を始めたい、あるいは関心を持っている方々へメッセージをお願いします。

藤崎師範: 合気道は、年齢や性別、運動経験の有無に関わらず、どなたでも安心して始めることができる武道です。覇天会では、武道未経験の方を心から歓迎しています。

合気道の稽古を通して得られるものは、単なる体力向上や技術習得に留まりません。礼節を重んじ、他者を尊重する精神性、そして何よりも、実戦合気道が提供する、高度な打撃への対応力と多彩かつ戦略的な立ち関節技に裏打ちされた、確かな護身術を身につけることができます。武道の持つ奥深さと、競技としての知的な面白さ、そして「いざ」という時に自身を守る力を、同時に追求できるのです。

少しでも興味を持たれた方は、ぜひ一度、覇天会の道場の門を叩いてみてください。合気道という武道が持つ無限の可能性と、稽古を通じて成長していくご自身の変化を、きっと実感していただけるはずです。


【編集後記】

今回の藤崎天敬師範へのインタビューを通して、「合気道は実戦で使えるのか?」という問いが、いかに「実戦」の定義によって多角的に捉えられるべきか、という視点が明確になりました。藤崎師範の言葉からは、合気道、特に覇天会が追求する実戦合気道が持つ、護身術としての卓越した有効性、高度な打撃への対応力、そして戦略性に富んだ立ち関節技の魅力が、熱意と共に伝わってきました。同時に、他の武道・格闘技への敬意と、武道界全体の発展を願う真摯な姿勢も印象的でした。

覇天会では、現代に即した実戦的な合気道を基礎から学ぶことができます。確かな護身術を身につけたい方、武道の新たな側面を探求したい方、あるいは知的な駆け引きを楽しむ格闘技に挑戦したい方は、ぜひ一度、見学や体験入門に参加してみてはいかがでしょうか。

 

合気道 覇天会は、あなたの参加を心よりお待ちしています。